技術書典7 で国内初(?)のカスタムキーボード入門書を頒布しました。『Learning Custom Mechanical Keyboard』(通称:白ウサ本)は、最高の打鍵感・打鍵音を目指すカスタムキーボードの入手方法から部品をどう選ぶか、潤滑の仕方など、必要な知識を余すところなく解説する書籍です。電子書籍は BOOTH で、紙書籍は遊舎工房さんの店頭でご購入いただけます。
という宣伝もあるのですが、今回は技術書典になぜ出展したのかという、ちょっと別の話をしたいと思います。
私は、文章を書くのが苦手です。こう言うと、あまり信じてもらえないことが多いものの、嘘偽りがない気持ちです。私自身は本が好きな方ですし、人よりも本を読む方かなと思っています。それでも、私は文章を書くのが苦手です。きちんとした文章しか書けないというよりも、書くのに時間がかかるタイプです。
中学の頃の国語の先生が教えてくれたことで、印象的な言葉があります。それは「『国語力』は二種類ある。『読む力』と『書く力』だ。二つが両輪となって『国語力』をつくる」という言葉です。この言葉にそって考えると、私の苦手の原因は自身の「読む力」に対して「書く力」が低すぎるところにあるようです。書いた側から自分の文章が嫌になってしまうのです。だから、自分が書いた文章の推敲に時間がかかり、文章を書くのが苦手という気持ちをいつも持つのです。
これまで私は、いくつか雑誌の連載をさせていただいたり、著書を書く機会をいただいたり、技術書に関わらせていただくことがありました。そのたびに、遅筆で編集者の方にご迷惑をおかけしていました。書いたものは、それなりにおもしろいものだという自負はあるものの、色々と大変だったのです。
そして、書くたびに思ったのが「辛かった」ということです。なので、あるときから「もう、文章を書く仕事はしない」と決めていました。本業がありますから、文章を書くのは週末です。土日の休日を削ってまで文章を書いても、精神的にも疲れるし、金銭的にも大きなリターンがあるわけではありません。だからもう文章を書く仕事はしないと決めたのです。
そう決めてから、しばらくしてのことです。 RubyKaigi というプログラミング言語に関するのカンファレンスがあります。今年の春に福岡で開催された RubyKaigi 2019 のときです。
そのとき、高橋さんと会話をしました。高橋さんは「日本Rubyの会」会長をされている方で、達人出版という技術書に関する電子書籍の出版社を立ち上げ、技術書典の主催の一角を担っている方です。ちょうど、そのころに私は趣味で自作キーボードの設計や販売を始めていました。ですから、高橋さんに、ほんの軽い気持ちで「最近、自作キーボードのキットをつくっていますので、次の技術書典で自作キーボードを販売させてください」と話をしたのです。高橋さんがやっているイベントがだいぶ盛況のようだから、私も参加させてください、一緒に盛り上がりに貢献させてください、そんな世間話をするつもりで声をかけたのです。
すると、高橋さんは「技術書典は技術書のための場なので技術書を書いてほしいのです」と、ぴしゃりとおっしゃったのです。そこで少々、面食らいました。それでも、何か言わなければならないと思って「では、私も何か書くようにします」と、咄嗟にこたえてしまったのです。高橋さんの言葉が「コスパ悪いし、辛いから技術書はもう書かない」と決めた怠惰な気持ちを吹き飛ばすくらいの、峻烈なものであったからなのでしょう。
実のところ、技術書典に出展したというきっかけは、これです。高橋さんとの何気ない会話で、もうやるまいと決めていた技術書の執筆に再び取り組んだというのが本当です。約束を守るためというと少し変ですが、それが大きなモチベーションとなって、初めての同人誌即売会への参加を申し込みました。
技術書典への参加を決めてからは、初めてのことばかりでした。書籍をつくるプロセスについて知っているつもりであったものの、自分でやってみると分からないことだらけでした。私自身、同人誌即売会には、それほど参加した経験もなく、同人誌をつくるのも初めてのことです。Adobe InDeSignでの組版、印刷所への入稿など今まで経験したことのないことをひとつひとつ手探りで進める必要がありました。このくらいのページ数だから、どのくらいの値段にしようかという悩みから、どれくらいの部数を刷るべきかという話まで、同人誌をつくったことのある方であれば通過儀礼になっているようなことを悩みながらも楽しむことができました。
そのなかでも、表紙イラストを Orca さんにお願いできたというのは、今回書籍をつくってよかったと感じる大きな要素のひとつです。Orcaさんのイラストについては、偶然の機会で知って、イラストが投稿されるたびに素敵だなと思っていたのです。可愛らしさを持ちながらも、自然な感じがして、それでいてスタイリッシュな感じのイラストを描く方です。思い切って表紙イラストのお願いをしてから、終始、気持ちのよい対応をいただけました。
このような経緯もあって出来上がった本が『Learning Custom Mechanical Keyboard』という書籍です。今回の書籍は、それほど辛くありませんでした。これも、私にとっては新鮮な体験です。技術書典は、そのように実感させてくれた良い機会でした。本当に感謝をしています。