Nomu30 という自作キーボードを設計した

今までよく知っていたはずのものが、よく知らないものになってしまう、そんな経験はありませんか? たとえば、濃霧。よく知っているはずの場所なのに、まったく違った風景が広がり、自分がどこにいるのかすら分からなくなってしまいます。ただの自然現象なのに、自身で確固たるものだと考えていたものが揺さぶられます。私にとって Nomu30 は濃霧のように、タイピングとは何か、キーボードとは何か、今までとは違った視点から考える機会となりました。

Nomu30 は私が設計、開発をした自作キーボードです。キー数は 31 で、いわゆる 30% キーボードのカテゴリーになります。

キーが行方向にずれて配置されている row staggerd な配列で、自作キーボードでよく採用されている格子状の ortholinear や列方向にずれた column staggered な配列になじみがなく、ちょっと敬遠しているという方でも、普段と同じようにタイプできることを目指しています。

こだわりのポイントがいくつかあるのですが、そのひとつが ISO Enter キーです。しばしば、「自作キーボードに挑戦したいけれど、JIS配列キーボードが無いので手を出しにくい」という意見を目にすることがあります。そういった方のために、 ISO Enter キーを用意しています。

また、キーの物理配列では、一般的なキーキャップのセットが利用できるように考慮しました。キーキャップセットに含まれるキーの幅と高さは決まっています。それを考慮したうえで物理配列を決めましたので、 ISO Enter キーが含まれるセットであれば、だいたいのキーキャップセットで対応できるものとおもっています。

それから、キーボードのマイクロコントローラーとして Pro Micro を採用し、ファームウェアを QMK で用意しています。これは一般的な自作キーボードキットと同様です。アンダーグロー用 LED テープのための配線はしてありますが、動作確認はしていません。

組み立てにあたって、レーザーカットサービスを利用してアクリルプレートを制作しました。今回は黒いキーキャップとあわせたかったので、グレースモークの透明アクリルにしています。アクリルプレートで PCB をはさむサンドイッチマウントという構造です。

キーキャップは GMK White on Black を選びました。スタンダードな配色のキーキャップだけあって、だからこそ余計に GMK の品質の高さが伝わってきます。キースイッチは Cherry MX Black に Krytox GPL 205 GRADE 0 というグリスを塗布しました。スプリングを押下圧 68g のものに変更し、 Krytox 105 というオイルを塗布しています。キースイッチはひと手間をかけることで感覚がまったく違ったものになりますので、これもキーボードの楽しみのひとつです。

しばらく Nomu30 をつかっていると、意外と 30% キーボードでも大丈夫なんだなと分かってきます。このブログの記事は Nomu30 をつかって書いていますが、日本語を打つくらいであれば日常的に利用できそうです。また、「ー(長音記号)」は良くタイプするので、別レイヤーでホームポジションに近いところに割り当てると利便性が高いことにも気付きました。 Nomu30 を触る体験は、自分にとってキーボードはこういうものだという概念を考え直す良い体験になっています。


追記

設計したキーボードキットについては recompile keys のサイトをご覧ください。